練習問題(れんしゅう)41~の解説です。
プロの対局などから特に紹介したい局面を選んで問題にしました。
興味があれば、棋譜を探して鑑賞してみると面白いと思います。
問題41
1993年の第51期名人戦七番勝負第1局、中原誠名人対米長邦雄九段戦からの問題です。
この対局で勝利した米長九段は4連勝し、49歳11か月で自身初の名人位を獲得しました。
まず4一に角を打ちます。
①玉が4二へ逃げたら3二歩成とし、5一へ逃げたところに、6三角成で詰みです。
②4一角に対して4二玉ではなく5一玉と逃げたら6三角成で王手をかけ、4二へ逃げたところに4一から王手をかければ詰みです。
③4一角に対して玉が6二へ逃げたら、5二金打、同金、同角成、同玉から、5一に金を打ち、あとは金と飛車で追いかけていれば詰みます。
問題42
1979年の第37期名人戦七番勝負第4局、中原誠名人対米長邦雄棋王戦からの問題です。
この対局の83手目、先手中原名人が指した5七銀は歴史に残る妙手として知られています。
勝つだけなら3二竜か2四桂打のどちらかで王手をかければ大丈夫です。
①まず3二竜には2二へ合い駒を打たれますが、そこで2四桂打。
同歩だと2三金打で詰むので同銀と取るしかありませんが、そこで2二へ竜を切って王手をかけます。
同玉に3二金打、1二玉に対して取った駒で王手をかければ詰みです。
②最初から桂馬を打って王手をかけると、もっと早く詰ますことができます。
同歩なら3二竜、合い駒に2三金打で詰み。
同銀なら2二金打、同玉に3二竜で詰みです。
問題43
3四金打で王手をかけると玉は1三へ逃げるしかなく、次に桂馬を2五へ跳ねると詰みます。
問題44
2022年の第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局、藤井聡太棋聖対永瀬拓矢王座戦からの問題です。
4六に銀を打ちます。ここで3七か2七へ逃げると3八金打で詰むので2五へ逃げます。
2六に金を打ちます。ここで3四へ逃げると3五金で詰むので2四へ逃げます。
そこで3五角と引くと3四に逃げるしかなく、4四成桂と引けば詰みです。
問題45
2001年の第14期竜王戦決勝トーナメント挑戦者決定三番勝負第1局、羽生善治四冠対木村一基五段戦からの問題です。
先手と後手を入れ替えていますが、王手をかけられた先手羽生四冠の玉が逃げた局面です。
実はここの他に詰まない逃げ場所が3か所あり、プロの中でもトップクラスの羽生善治四冠(※タイトルは当時)が一手詰めを見逃して負けてしまったという、とても貴重な一局です。
ここからでも一見逃げられるところがありそうにも見えますが、4五飛打の一手詰めです。
問題46
江戸時代に行われた天野宗歩対八代伊藤宗印戦からの問題です。
まず3四と金を捨てるのがポイントです。
同玉に対して2四に金を打つと玉は4四へ戻るので、3六桂打で王手。
玉は4五へ逃げるしかありませんが、5六馬と引いて詰みです。
問題47
2018年、第76期順位戦C級2組10回戦、増田康宏五段対神谷広志八段の対局からの問題です。
先手と後手を入れ替えていますが、後手神谷八段が投了した局面で、仮に投了せず飛車を切って王手をかけ、先手が(同玉しかないので)同玉としていたら、という局面です。
自分が勝ちの局面になっていることに気づかず、投了してしまったという非常に珍しい一局です。
3二に銀を打つのが大事です。他の駒だと失敗します。
同玉に対して4三金と打ち、同玉なら5四に角を打ってすぐ詰むので、2二へ逃げますが、3一角打。
これを取ると3二金打で詰むので、1二玉と逃げます。
ここで1四香と打ち、合い駒を打たれますが同香と取り、香車を同桂で取られます。
ここでは1三の合い駒が角だったので(※)、2二に金を打ちます。
もし最初に3二に銀ではなく金を打っていたら、ここでうまい王手がかけられくなってしまっていました。
(※1三の合い駒が飛車だった場合は2二飛打)
同銀と取られたら同角成、同玉に3三銀。
1二に逃げたら2一角打(1三の合い駒が銀だった場合は2一銀打)とし、同玉とされたら(または1二へ逃げずに2一玉とした場合も)3二金、1二玉、2二金と寄って行けば詰みます。
問題48
江戸時代の詰将棋集、将棋妙案から引用した問題です。
一見簡単そうに見えますが、なかなか難しい問題です。
3二に銀を打ちます。
4二玉は4一銀成~2二金打で詰むので同玉か同金ですが、同金だと次の4二角打に対してどうやっても2二金打で詰むので、後手は同玉と取ります。
次に2三に角を打つと、4二へ逃げれば4一角成で詰み、2一へ逃げれば2二金打で詰むので玉は3一へ逃げます。
上の局面まで行けば4一角成~2二金打か、2二金打から4一角成で詰みます。
問題49
1982年の第7期棋王戦第1局、米長邦雄棋王対森安秀光八段の対局からの問題です。
桂馬が利いている9三に金や飛車を打ちたくなるかもしれませんが、それだとうまくいきません。
まず8二に飛車を捨てるのがポイントです。
9一へ逃げると9二金で詰むので、同玉と取るしかありませんが、次に9三角打と王手をかければ、どう逃げても8二へ金を打てば詰ますことができます。
問題50
1983年7月19日に行われた第24期王位戦挑戦者決定リーグ戦、谷川浩司名人(当時)対大山康晴十五世名人の対局からの問題です。
まず失敗手順から紹介します。
失敗手順:5二の角を4三角成として王手。
5四歩打に対して6六銀打。
以下は同と、同歩、5五玉と逃げた局面となります。
5六歩を打つと詰みそうですが、打ち歩詰めの反則になってしまうため失敗(先手の負け)です。
正解手順:正解はなんと5二の角を4三角不成としての王手です。
あえて角を成らないことにより4四への利きがなくなり、上の図のの5六歩が打ち歩詰めになりません。
以下は初手以外は失敗手順と同じように進んで5五玉に対して5六歩打とし、4四玉へ逃げられた局面。
ここで4五歩打と王手を続けます。
3三へ逃げた玉に対して金を取りつつ2三角成とします。
もし4三玉と角を取れば3三金で詰むので、後手は同玉と取りますが、3四角成と追いかけます。
①3四角成に対して3二玉と逃げれば、2三金と打ち、4二か4一へ逃げられても、5二金で詰みです。
②3四角成に対して2二玉と逃げれば2三金打。
2一玉と逃げますが、2二に歩を打ち、1一玉に1二金で詰みです。2三金打のところをうっかり3三金打とすると詰まなくなってしまいます。
③3四角成に対して1四へ逃げれば2四金打、1五玉に2五馬で詰みです。
④3四角成に対して1三へ逃げても2三金打、1四玉に2四馬で詰みです。
銀や香車、桂馬と違って飛車や角は成った後も元々の特徴は失われず駒の動きとしては(動ける場所が増えるだけなので)有利にしかならないため、あえて成らないということは普通考えられません。
例外的に打ち歩詰めを回避するために飛車不成や角不成が有効な場合がありますが、実戦で狙ってできることではなく、作られた問題以外でお目にかかることは滅多にありません。
その貴重な局面が公式戦で現れたのが本局、当時の現役名人対永世名人の一局でした。
永世名人というのは「名人位」を5期以上保持した棋士が名乗ることを許される資格で、大山永世名人は当時すでに十五世名人でしたが、谷川名人(当時)はその後十七世名人を襲名しています。
上の問題解説の終盤、3四角成の局面だけを見ても詰将棋の問題として成立するような芸術的な局面ですが、実際の対局ではそこまで進まず、後手5五玉に先手が5六歩打と王手をかけた時点で後手の大山永世名人が投了し、先手谷川名人の勝利となりました。
時代を代表するトップクラスの棋士同士の対局で生まれたこの「谷川名人(当時)の角不成」は、「羽生五段(当時)の5二銀」と並んで将棋の歴史に残る伝説の一手として語り継がれています。